薄暗い道
灯りのまるで燈っていない見知らぬ道を歩いていた。薄暗いことはそれ程気にならなかったが、何故自分がこんな道を歩いているのかまるで見当がつかず、どこからか蟇蛙がぐわぁと鳴く声が聞こえるところをみると近くに池でもあるのかもしれないが、自分の家の近くに池などなかったはずで、いやいや確か自分はちょっと一杯ひっかけた後、知人の家を訪ねる途中であって、久々に会う知人だからこうして土産を携えている訳で、ちょっと近道をしようと思ったら、こうして見知らぬ道に迷い込んでしまったのだ。一旦はそう納得しかけたのだが、その知人の名前がまるで思い出せない。そういえば知人の名前なぞ気にしたことはまるでなく、あるいは、一度も名を訊ねたことなどなかったのかもしれない。それでどうして知人と言えるのか。勿論その疑問は至極当然のことなのだけれど、こうして目を閉じてみれば、脳裏にはっきりと、にこやかな知人の顔が思い浮かぶ。その顔はどこか蟇蛙に似ていないこともなく、一旦そう思ってしまうと、その知人というのも先程からの蟇蛙の声から私が勝手にひりだしてしまった居もしない人物であるようにも思えてしまう。どうも頭がふらふらする。あるいは私はすっかり酔っ払ってしまっているのかもしれない。
また蟇蛙がぐわぁと鳴き、その声につられる様に足を止め、改めて辺りを見渡した。薄暗かったので、まるで気づかなかったのだが、そういえば灯りが燈っていないというだけで、細い道の両脇に立ち並ぶ家々にはどこか見覚えがある気がしてきた。そう、あの看板などは普段よく見かけていた看板の筈で、あの角のペンキの剥げ具合は確かに記憶にある。そうだ、ここは家のすぐ裏手の道だ。そう思うと、途端にこの薄暗さが不気味に思えてきた。人気のまるでないこのしんとした様子は一体なんなのだろう。ぶるぶると身震いがして、急いで自分の家に向かおうと思うのだが、何故だかまるで見当がつかない。やはり自分は知人の家に向かう途中だったのだろうか。いや、そんな筈はない。ここは家の裏にある道の筈で、あそこの電信柱に貼られた広告には確かに見覚えがある。
また蟇蛙がぐわぁと鳴いた。道は相変わらず薄暗い。私は蟇蛙がいる池を思い浮かべ、そういえばそんな池が家の近くにあったかもしれないと思う。