地下鉄
照明の具合がどうにもおかしいようで、構内はひどく薄暗く、時折かすかに瞬いたかと思うと、まったくの暗闇が構内を覆ったりする。ただでさえどこか黴臭いのに、その上真っ暗になってしまうと、辛気臭いのを通り越して、不気味というほどだったのだけれど、私はこの駅の職員でもなければ、電気技師でもなく、たまたまこの駅を利用することになっただけの大袈裟に言えば異邦人なのであり、ただ一度、ほんのわずかの間いるだけの構内の照明が悪かろうと、列車さえ時間通りに来てくれればたいした問題ではなかった。ホームに散らばる他の客たちにしても左程気にしている様子はない。
再び照明が点いて構内が明るくなり、といっても真っ暗な状態に比べれば明るいというだけの話で、薄暗いのは相変わらずで、構内の隅の方になるともうまるで真っ暗でどうにも辛気臭くていけないと思うのだけど、勿論たいした問題ではない。そのようなことを考えながらぼんやりとしていると、ひたひたとどこからか水が漏れ出すような音が聞こえ始め、いや実際にそれは水が漏れる音だったようで、気づいた時にはすでにレールは水で浸っていて、さらにどんどんと水かさは増していき、ホームに溢れんばかりまでになった。しばし呆然とした後、これでは列車が来ることが出来ないではないかと、私は酷く憤慨したが、その怒りをぶつけるべき駅員の姿は相変らずどこにも見当たらない。
ボッボッボッボッと、列車がホームにやって来るのはまるで異なる安っぽいディーゼル機関の音が聞こえ、トンネルの暗闇の向こうから、にゅっと小型船がやって来ると、さもそれが当然であるかのようにホームに止まった。船に被せられた継ぎ接ぎだらけの幌の横で、船頭らしい灰色顔の老人が黙ってホームを見渡すと、疎らに散らばっていた他の客たちがすっと集まってきて、皆乗り込んでいってしまった。そして船は、ただ立ち尽くすだけの私を残して、ボッボッボッボッとトンネルのあちら側に消えていった。
船がすっかり見えなくなると水はすいと引いていき、レールの上でぴしゃりと跳ねる一匹の魚を残して全く元のとおりになった。ぴしゃりぴしゃりと跳ねるその魚を黙って眺めていると、束の間瞬いた明かりがぱっと消え、ゴウッと音が響いたかと思うと、窓を煌々と光らせた列車が私の目の前を通り過ぎていった。
再び照明が点くと、レールの上で先程の魚が轢断されていた。構内は相変わらず薄暗かったのだけど、この駅の職員でもなければ、電気技師でもない私にはどうすることもできなかった。