激しい雨 04/3/17


 深夜になり降り始めた雨の音を聞きながら、このところ物語がどうにも書けず困っていた僕は、白紙の原稿用紙を前に、ただぼんやりと、その音を聞いているより他なく、ふと、本当に雨は降っているのだろうかと思うのだけど、窓を開けて確かめるまでもなく、確かに今聞こえてくるこれは雨音であって、他の何でもないはずで、いや、はずなんて曖昧な言い方をする必要はなく、雨は確かに降っているのだ。こんなにも激しい雨音が聞こえているというのに、雨が降っていないはずはない。何故だかそれは確信というよりも畏怖に近いような気持ちで、窓を開けて確かめてみるのが恐ろしいと、そう思えるのは一体どのような錯誤があってのことだろう。こんなにも激しい雨音が聞こえているのに、雨が降っていないなんて、そんなことがありうるはずはない。

僕は雨のことを頭から振り払おうと、真っ白な原稿用紙に向かうのだけど、どうしても、雨のことが心から離れず、雨が降っている。シトシトではなくザーザーとでもなく、何かものすごいようなとでもいうべき雨が降っている。と原稿用紙に書きつけ、さて、この続きはどうなるのだろうかと思案するのだけど、雨はやはりシトシトと降ってこそ風情があるのであって、このように激しい雨というものは、物語には不釣合いだと思い、原稿用紙をクシャクシャとまるめ、ポイっと屑篭に捨てた。

相変わらず激しく降りしきる雨の音を聞きながら、どこか見知らぬ異国の街の石畳の上にシトシトと雨が降る様子を想像した。明かりのまるきり灯っていない静かな街に、ただ雨だけまるでこの街の主人であるかのように降っていた。しかし、やがて、通りに面した家々にポツポツと明かりが灯りはじめ、石畳の上をゆっくりと行き交う色とりどりの傘があらわれると、傘をさした異国の風貌の紳士たちが、「やあ、今日もまた静かに雨が降るよいお天気で」「まったく。お茶を頂くのに相応しいような気品ある降り具合」なんていう会話を交わす。僕はその様子をこっそりと眺めているのだけど、相変らず聞こえてくるのは激しく降りしきる雨の音で、憂鬱な気持ちがしてしかたなく、この街にも、もっと激しく雨が降ればよいのにと思う。しかし、僕が想像している街のはずなのに、相変らずシトシトとお茶に相応しい静かな雨が降りばかりで、どうにもならない。

激しい雨とともに吹く激しい風が時折、窓を震わせ、僕はその様子にビクビクしながら、さて、この街ではこの先一体どんな出来事が起こるのだろうかと、じっと眺め、雨はシトシトと、そして激しく降っているのだとそう思う。 僕にとってはそのどちらもが本当で、どちらも嘘のことじゃない。だから僕は窓を開けずに、ただ静かに雨が降り続ける異国の街を眺め続けるんだ。



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