春 04/4/20
昼だというのに妙に薄暗い路地を連れ立って歩いていた。時々にある電柱の蔭には、暗く、大きな、しかし薄っぺらな得体の知れない何かが潜んでいて、こちらをじっと見つめながら、低くひどく聞き取り難い声で何やら話をしていた。
そのうちに路地の両壁を鯨幕が覆いはじめ、遠くとも近くとも解らぬどこかから読経の声が漏れてきて、いやにうす寒く、冷たいように思えた。
どこかで、季節外れの風鈴の音がチリリと鳴り、不意に目の前の辻を子供らがけたましく笑いながら、駆け抜けていった風なのだけれど、姿はまるで見えず、訝しぶ私を他所に同行の車掌が、乗車の時間に遅れそうだと言うのだが、まるで困った様子は無い。私は黙って頷いて、麦酒が飲みたいと思ったのは何故だか解からない。
読経の声が先程よりも大きく聞こえ、線香の香りすら漂ってきた。昼だというのに電柱の街灯が燈り、件の薄く、大きな何者たちかが話を止めた。街灯が燈ったというのに路地はなお暗いように思え、延々と何処から何処まで続いているようだった。
どれほど歩いたか知れない。路地は唐突に途切れ、ひどく明るい空地に出た。
桜の木が一本、満開の花を散らせながら立っていた。その木の下では、学生服に学生帽を目深に被った若い男がシャベルを片手に、手招きしていて、何故だかその男は若い頃の祖父に似ていた。
ふらふらとそこまで行くと、男の足元には大きな穴が掘られていて、私は一つ頷いてみせると穴に横たわった。祖父に似た若い男と車掌が丁寧に土をかけ、埋めていってくれた。
私は土に埋もれていきながら、頭上を眺め、こんな綺麗な桜は今まで見たことが無いと、そう思った。
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