陽はまたのぼりくりかえす 04/5/20


 もう明け方が近いような時間になってようやく蒲団にもぐりこむと、今朝の十時までに返さなければならないビデオがあったのを思い出して、ああ、面倒だ、と思うのだけど、せっかく思い出したのに、延滞料金を取られてしまうのも馬鹿らしいし、一日中降り続いていた雨もやんでいるようだったから、起き出して返しにいくことにした。薄く白み始めた街中を、パタパタと走る新聞配達のバイクとすれ違いながら、自転車を走らせ、ビデオ屋にいくと案外と人がいるもので、何にせよ商売繁盛でまことに結構などといい加減なことを思うのは勿論のこと眠気の所為だ。前から見たかったシベールの日曜日という古いフランス映画を借りて、店の外に出ると、さきほどよりも随分と明るくなっていて、どうやらもう夜が明けてしまったらしい。ひんやりとした朝の冷気を感じながら街の中をふらふらと走っていると、いつのまにやら迷いようもないはずなのに道に迷ってしまっていたのは、これもまた眠気の所為に違いない。何か前方に神社のようなものが見えて、ということはおそらくそれは北野天満宮に違いなく、僕の家より少し南に下りすぎている。そうだとすれば、上七軒を抜けて北に向かえばいいだけの話で、迷ったなどというほどのうちにはいらない。
 ふと何かを感じ視線を落とすと、目の前を何か小さな行列なようなものがぞろぞろと通っていくところで、目をしばたいてとっくりと見てみると、それは少し大きな鼠くらいの老婆の列で、老婆なのだけども着ている着物がちょいと派手だったから、昔はこの辺りの御茶屋の芸者だったのかもしれないと呑気に思った。さてはてこんな調子ではちゃんと家に帰れるのか少し覚束ない。そう思ったもののそれ以外格別何もなく無事に家に戻れてしまったので少し拍子抜けした。
 欠伸をかみ殺しながら、朝のニュースを見てから寝ようとテレビをつけると、ちょうど宇都宮の立て篭もり事件現場に警官が突入するところで、現場を遠巻きにするカメラを切り替え切り替えしながら見守った。犯人確保ですとアナウンサーが叫び、現場から犯人を乗せたと思しき救急車が走り去ったのを機にテレビを消した。その時にすでに犯人と人質になっていた女性が死んでいたということを知ったのは夕方になってからだった。
 僕はなんとはなしに、隠し持っていた拳銃を取り出すと自分のこめかみに銃口をあてがい引き金を引いた。
 
 BB弾一つ飛び出さなかった。


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