十五世紀の円形劇場 02/11/03 (勝手に一人雑文祭参加雑文)


 プネウマ円形劇場 ――― この欧羅巴全土の唯一の熟覧たる美麗さを誇ってやまない白亜の劇場は、正確に云うとキオスのエラシストラトゥスによる脳髄神経の内部に混入されたるプネウマ或いは実体化された宇宙論的原理に元ずく劇場となるが、私は便宜上プネウマ円形劇場の名で呼ぶことにする。 遠目には雑然とした群集さながらの集団が、いくつも折り重なるようにしていっせいに身体を傾け、この白亜の豊艶たるプネウマ円形劇場の客席にしがみついて、吹き付ける西風を避けている。今ここで行なわれているのは、壮大にして空前絶後な演繹的実験であるソシオドラマであり、それは勿論ギュルヴィッチによるソシオメトリー分析の結果、導き出されたソシオビリテに基くものであることは明白であった。「朱鷺よ! 止まれ! 汝は鬱らしい!」と、突然私の隣で先刻まで鼾をかいていた薄汚れた襤褸を纏った老人が野卑て陰険な濁声で叫んだ。すると、随分と向こうで一人の青年がやおら立ち上がると朗々たる美声を響かせ始めた。「願はくは我憤慨の善く量られ我悩みの之とむかひて天秤に懸けられんことを 然れば是は海の砂よりも重からん斯ればこそ我言葉妄りなりけれ それ全能者の矢わが身にいり わが魂その毒を飲めり神の畏怖我を襲ひ攻む 野驢馬あに青草あるに鳴かんや 牛あに食物あるに唸らんや 淡き物をあに塩なくして食はれんや 蛋の白身あに味あらんや わが心の触るゝことを嫌ふ物是は我が厭ふところの食物のごとし 詰まる所臭くて堪らない! 何故なら詰まっているからだ!」最後はまるで硝子板を擦りつけるような高音で叫ぶと青年は満面の笑みを浮かべ悠々と席に着いた。青年が着席するやいなや別なところで至極貧相な身なりの男が飛び上がり叫んだ。「おお! これぞまさに鬱の知と呼ぶに相応しい!」斯様に我々は相互にオルギーな観客であり、思索的に優れた役者でもあった。これらプネウマ円形劇場に於けるゼーレンドラマは産業ジェロントロジー計画により進めれていた事業の一般的な普及の延長線上に位置するものであり、先の第三十八回老年化会議(度重なるうちに出席者も老年化してしまった)に於けるエドワルダ議長夫人の「誰でも読むことを学びうるという事体は、長い目でみれば、書くことばかりか、考えることをも害する」という発言を受けて、白鷹秀麿博士が火急に推進した結果であった。我々はいつまでもこの円形の劇場に止まり続け演じ続ける義務を負うものであり、それは同時に権利でもあった。如何なる権力も我々の自明の権利を無効化することは出来ないのであり、それまさにメリアム云うところの「体系的政治学」に他ならず、現代においてはウォーラーステインによる「世界システム論」の研究として身を結ぶものであった(とりわけベルリンの壁崩壊とソ連解体における共産主義の没落が実はリベラリズム崩壊に繋がっているとするジオカルチャー的研究に大いに影響した)。と、突然一際大きな歓声が上がる。舞台の上に大きな黒い箱が運び込まれ、壮大な実験が始まろうとしているのだ。「シュレーディンガーの黒猫」かつてヴァージニアという幼妻を失った男の悲願だった実験である。しかし、白尽くめの司会の男が盛大な拍手が響く中現れたところで、私の記憶は途切れる……。

 私がこれを書いているのは、東京郊外の精神病院の一室である、とでも書けば話がまとまるかといえば大間違いであり、それは一種の逃走的行為に他ならず、その脱兎の如き逃走劇における並走者のその形相の凄まじさから窺い知ることの出来るわずかの情報を元に分析してみる余裕などあるはずもない。何故なら、閉じられた円形の外に出る術は当然のことながら何もないからなのであり、我々は永遠にこの逃走劇を繰り返す他ないからだ。そこにはアリストテレス主義的ドラマツルギーはもはや鳴くよウグイスヘイヘイホーであり、結局の所これらの事体の推移から導きだされるコミュニオン的結論はエピステモロジー上なんの意味も無いことであり、言い換えるならプラグマティズムに堕した商業主義的音楽産業は如何なる見識をも生むことはないという揺ぎ無い事実であったりすると云う時点において、もはや何のことだか解らない。幕だ! 幕を引け! イエッサー! ―― 閉幕と書いてカーテンフォール!





勝手に一人雑文祭

縛り
1. ナルシスティックに専門用語や横文字を駆使する。
2. 自身の創作的表現を用いてさらに難解に見せ掛ける。
3. 自分で書いている文章を自分でも理解していない。
4. 意味が理解されたら負け。

よーするに適当。

勝手に一人雑文祭参加作品
ブランデンブルグの交響楽 (くだらな随想) 
飢餓論 (赤ずきんちゃん★UpSwing
譯若布 (しょうもな文
時間旅行機械考察道逸脱前期量子論  (かげろう
文子超振動粒場有限要素理論 (雨谷の庵
ご参加有難う御座います。

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