02/12/22


 ある年の暮れのことだった。夜道をとぼとぼと歩いていると、白い雑巾のようなものが道の端に落ちていた。よく見るとそれは猫の死骸だった。車にでも轢かれたのか、その姿はいかにも哀れだった。冷たいアスファルトの上に放って置くのも、忍びなかったので、家の庭にでも埋めてやろうと、その死骸を抱えた。飼い猫だったのだろうか、首輪に付いていた鈴が音をたてた。家にたどり着いた頃、身重だった妻がひどい猫嫌いであったことを思い出し、一人で黙って、いちじくの木のそばに穴を掘って埋めた。冬の土はひどく冷たかった。その木は両親が結婚した時に記念に植えられたもので、私にしてみれば一つ違いの兄のようなものだった。
 やがて、春になると、そのいちじくの木の根元一面に、まるで白い鈴のような蕾をつけた花が覆った。それを見付けた私は、産まれて来たばかりの娘に、鈴という名前を付けることにした。
 
 そして、それから十年経った暮れのことだった。鈴は交通事故に遭って死んでしまった。私は鈴の遺骨をいちじくの木の根元に埋めた。猫嫌いの妻には、そのそばに埋められた猫がいたことは黙っておいた。

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