トンネル 03/3/05
薄暗さに慣れとっくりと目を凝らして見ると、トンネルの両脇には延々と鯨幕が続いていて、足元の細長い金属のようなものは予想通りトロッコのレールだった。私はそのレールに沿ってトンネルの奧へ奧へと進みながらよくよく考えてみるのだが、どうにも解らないのは路面電車に乗り込んだ筈なのに、何故このような場所にいるのかということで、途方に暮れるという程でもないが、いささかの気持ち悪さのようなものを感じていた。
奧へと進むたびに、いや奧へというのもどちらが奧なのか要領を得ないので、便宜上奧へということにしているのだが、ともかく歩み続けるたびにトンネルの両脇に薄っすらとした灯りのようなものが燈り始め、というのもとっくり眺めてみれば、そこにあるのは鯨幕がかかった壁に過ぎず光源になるようなものは何もなかったのではっきりと灯りという訳にはいかず、灯りのようなものとしか言いようがない。そのよく解らぬ灯りと共になにやら生活のざわめきのようなものも聞こえきて、人の気配など微塵もないのに全く妙なもので、ちょいと耳を傾ければどうにも夕食時のひと時のように感ぜられるのだが、ここは薄暗いトンネルの中なのであって、夕暮れ時の街中ではない。
私の頭がいよいよおかしくなってきたに違いないと思い始めた矢先に、背後でレールの上を何かがゴトゴトと走るような音が聞こえ振り返って見れば、薄暗いトンネルの中をトロッコがこちらに向かってくるところで、いや、近付いてくるそれをよく見てみればそれはトロッコではなく、棺桶に違いなく、何故、延々と鯨幕が続いているのか諒解出来た気がした。
ひょいとレールから退いて棺桶を見送った先に、先程からのはっきりとしない灯りとは異なったいやにはっきりとした灯りが燈っているのが見え、足早に近付いてみると、トンネルの壁を穿ったような格好で一膳飯屋があった。中に這入ると粗末な外見とは裏腹になかなか粋な様子でビフテキなどがひどく安かったのでビールと共に注文して席に付いた。店の親父の顔にどこか見覚えがあるような気がするのだがどうにもはっきりとせず、はてと頭を傾けているうちに注文したいやに肉汁を滴らせたビフテキが運ばれてきた。
ひどく安い値段にも関わらずビフテキは大変美味く、美味い美味いとすぐに食べ終え、それからようやく、この店の親父は近所の野良犬にどこか似ているのだということに思い至った。
店の外からは、ゴトゴトと棺桶が通っていく音が聞こえてくる。
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